“ この星の振子はいまゆっくりと池のへりに近づいてきました。するとそこのくらい水面から、大きな花のつぼみがすうっとのびて出てきました。振子が近づくにつれて、つぼみはだんだんふくらみはじめ、やがてすっかりひらいた花が水のおもてにうかびました。
それはモモがいちども見たことのないほど、うつくしい花でした。まるで、光りかがやく色そのものでできているようです。このような色があろうとは、モモは想像さえしたことがありません。星の振子は、しばらく花の上にとどまっていました。モモはその光景に、すべてをわすれて見入りました。そのかおりをかいだだけでも、これまではっきりとはわからないながらもずっとあこがれつづけてきたものは、これだったような気がしてきます。”
– ミヒャエル・エンデ『モモ』より
本日7月12日から16日頃までは、七十二候「蓮始開(はすはじめてひらく)」。
蓮の花が開き始める時期。→七十二候「蓮始開」
そんな今日、偶然にこの文章に行き当たったことが不思議に思えました。
『モモ』は、20年くらい前に一度読んで以来ですが、そのころとは全く違う気持ちで読みました。
モモが、マイスター・ホラと「時間のみなもと」を見にいく場面がとても好きです。
”鳴りひびく光”が、くらい水底からうつくしい花のひとつひとつを呼びだし、形をあたえる。
花は何度も生まれかわり、その度、それまでのどの花ともちがう唯一無比の奇跡の花を咲かせる。
まるで輪廻転生を思わせる世界が、本当に本当に美しく、何度も読み返しました。
”「もし人間が死とはなにかを知ったら、こわいとは思わなくなるだろうにね。そして死をおそれないようになれば、生きる時間を人間からぬすむようなことは、だれにもできなくなるはずだ。」” ― By マイスター・ホラ
「時間のみなもと」を訪れたのち、モモが言った言葉が印象的でした。
” 「あたし、ちっとも知らなかった。人間の時間があんなに……」―ぴったりすることばをさがしましたが、見つかりませんしかたなく、こうむすびました―「あんなに大きいなんて。」”